ルート(末梢静脈路)確保をする際に、最もありがちな失敗が「点滴が落ちない」です。
内筒の逆血はあったのに、なぜ?
これはつまり、内筒で血管は貫いたものの、外筒がうまく血管内に留置できなかったことを意味しています。
こうなったけど
こうなっちゃったわけですね。
本当なら
このように少し進めて
こうして血管内に留置するわけです。
この手の失敗は、おそらく今日もどこかで何回も起こっているわけであります。
僕はこのサイトを見てくれたスタッフの人が、この方法で少しでもそんな時間、物、痛みのロスを減らす事ができればな、と思っています。
さて、そんな失敗する確率をグッと下げる方法について。
ルート確保が得意な人、上手い人がこっそり知っているコツ・ポイント
さて、いざルート確保をします。
良さげなY時の血管を発見しました!(血管選定のコツに関しては下記)
いざ、刺しました、プスり。
お!内筒の逆血が来ました!
これはつまり
こうなっているという事です。
少し進めて、外筒のビニール部分を血管内に留置すれば、成功です。
しかし待ってください。
どこまで進めれば良いのか、どうやって判断すれば良いのでしょうか?
「少し進めて」の少しって、どれくらいでしょうか。
実はルート確保の上手な人、得意な人は、この「少し」を感覚的に知っている、体が覚えているので上手なのです。
しかし、知識として、コツとしてポイントとして覚えておく事もできます。
話を戻しましょう。
仮に針を少し進めたとして
現在、血管と針の関係は上の図のようになっているハズです。しかし、今の状態では外筒が血管内にあるかどうかわかりません。
つまり、そのまま外筒を進めても
このように手前すぎて血管に入っていない場合がありますし
このように血管を貫いてしまっている可能性もあります。
そこで、外筒が血管内にあるかどうか、針を抜いてしまう前に確認することが重要です。
これであなたもルート確保上手!逆血が来たら内筒を少し抜いてみよう
具体的にどうするかというと、外筒を動かさずにほんの少しだけ内筒を抜いてみましょう。
つまり、針の先端が内筒ではなく外筒だけの状態にして、外筒に逆血があるかどうかを確認をする、ということです。
この状態であったのを
このように、針だけ抜いてしまって外筒を血管の先端に出します。
わからない人のために、外筒と内筒の構造をもう一度おさらいすると
これが内筒。将来的に抜く金属部分。
最初の逆血はここに血液が入る事で起こります。それは「内筒の先端が血管内にある事」を示しています。
これが外筒。留置するビニール部分。
内筒の先端の逆血があったからといって、外筒が血管内にあるとは限りません。
今回は、それを確かめる方法、というわけです。
内筒の逆血があったところで、内筒を少し抜くと
こうなります。
手技をしている人からの視点では、この変化は下図になります。
ここで外筒に血が来なければ、その位置で外筒を留置しても血管内には入りません。
外筒の逆血があって初めて、留置する外筒の先端に逆血があった、と言えることができ、それはつまり外筒の先端が血管内にある事の証明になります。
そうして初めて
こういう状態に持ってくる事ができます。
理解できましたか?
この方法を使えば、100%外筒が血管内にあるかどうかを判断する事ができます。
僕のルート確保成功率が100%な秘訣は、これにあります。
天才でもなんでもなく、理論に基づいてロジカルにやっているだけです。
しかし、これだけでは終わりません。
ルート確保の上手い人、得意な人がこっそりやっている技術
これまでの知識で、留置する外筒が100%血管内にあるかどうか判断できるようになりました。
あとは、外筒を先当たりさせずに100%血管内に留置し終える技術があれば、ルート確保の成功率が100%になるとは思いませんか?
今回は、外筒が血管内にある事を確認した上で、外筒を血管内に留置する際の成功率を高める方法についてお話します。
上記の図は、血管内に外筒が入っているけれども「点滴が落ちない」状態です。
そう、外筒が血管内に入っていても、このように先端が曲がってしまっている状態では点滴は落ちません。
理想的には、このような状態に持ってくるのが理想です。
では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
内筒を「完全に抜かない」状態で内筒ごと進めてしまえ
先ほど、ありがちな失敗は内筒の逆血を確認してそのまま外筒を進めてしまう事だと言いました。
そうすると、外筒が血管内に入っていない可能性があって
手前過ぎたり
血管を貫いてしまったりするかもしれない、その状態を確認できないよ、というアドバイスでした。
今回紹介するのは、外筒の逆血を確認した上で外筒を進める段階で、先端が曲がってしまう事を防止するテクニックです。
具体的には、外筒だけ進めずに内筒も一緒に進めろ、です。
先程、内筒の逆血を確認した後、寝かして針を少しだけ進めて、内筒を少し抜いて外筒の逆血を確認するという、上図の段階まで説明しました。
前回はこの段階から
いきなりこの段階までうまくいっていましたが
こうなる可能性だってあります。そこで
このように、内筒と外筒の位置関係を変えずに、両方とも血管内に入れてしまいます。
そうすると、内筒がガイドワイヤーのような役目をになって、ビニールでできた外筒の先端が曲がってしまうのを防いでくれます。
上図の段階で、内筒を抜いてしまえば
こうなる事間違いなし。
留置する部分、ビニール部分がフニャフニャしてて柔らかいので、そのビニールだけを進めると、壁に当たって曲がってしまい、点滴が落ちない事があります。
特に高齢者はそうなりがちです。
しかしこの方法ならば、金属部分のコシをつかって、ビニール部分が曲がったりしてしまう事なく、血管内を進んでいく事ができるわけです。
しかし、注意点もいくつかあります。
針は寝かせて、内筒だけ入れるのはやめて
ここで注意したい事が2つあります。
まず1つは針全体をかなり寝かせる事です。ここに来て角度があると血管を貫いてしまい、せっかく外筒の逆血があったのに
こういう状態になってしまいます。
注意点の2つめは、内筒と外筒の相対的な位置関係を変えない事です。特に、内筒だけ進めるのはご法度です。
なぜなら
このように外筒が内筒より前に出ている状態で、内筒だけを進めると
こうなるからです。
血管壁を貫く金属針ですから、ビニールくらい簡単に突き破ります。
なので、必ず内筒と外筒を一緒に、針全体を進めるようにしましょう。
先当たりしてしまったかもしれない、リカバーする方法は?
もし上図のように、先端が曲がっている可能性がありそうだったらどうでしょうか。
具体的には、手元が狂って「内筒だけ置いてけぼり」になって、外筒だけが先行してしまったな、と思った時です。
リカバーする方法としては、注射器で圧力をかけて生食を流す、です。
外筒はビニール製ですから、中に液体が高い圧力で通れば、曲がっている先端が伸びて
こうなる、かもしれません。
しかし実際のところ、少し手前に引いて生食が入っても、そのまま進めるとまた先端が曲がってしまう場合がほとんどです。
また、もし注射器でも入らなければ、先端が血管内にないため諦めましょう。
ルート確保下手が上手になるために、この方法をとにかく繰り返しマスターせよ
内筒の逆血が来たら、内筒を少し引き抜いて外筒の血液逆流を確認する。
外筒に逆血があれば、そのまま内筒ごと、空間的な相対位置を変えずにそのまま進め、そこで留置。成功。
外筒に逆血がなければ、外筒の先端は血管内に100%無いので、再び内筒を進め金属針を針の先端に出し、位置を調整する。たいていの場合浅いので、少し進める。
そしてまた内筒を抜いて、外筒の血液逆流を確認する。
これを成功するまで繰り返す。
この方法をやることで、血管は貫いたけど(最初の内筒の逆血は来たけど)外筒を血管内に留置できなかった(外筒の逆血はなかった)、という失敗を防ぐ事ができます。
極端な話、最初の逆血さえ確認できれば、成功率は100%です。
繰り返してマスターして、ルート確保上手になってください。
患者さんの負担も少ない
そしてこの方法、手技は本当に微細な調整なので、患者さんからしたらほとんど痛覚を感じません。
失敗してもう1回皮膚を貫くより、多少時間がかかっても痛くないようにやってほしい
というのは患者さんの心境ではないでしょうか。
成功まで繰り返す事が重要です。
頑張ってください!